私たちの故郷はどこか。

落ち着く音楽を聴いたり、ほっとするような映像作品や絵画を見たりすると、心が温かく、穏やかな気分に満たされる時があると思います。

そのほとんどは、私たちにある、生まれてから今に至る何らかの記憶と、それに付随する感情が、その際に再生されていると見ることができ、そう言ってしまえば、脳内ホルモンの分泌(記憶の再生ととも促されるリラックスへの指令等)などと関連して、身も蓋もないことになってしまいます。

しかしながら、一方で、個人的には、そういった記憶の再生機能とは違って、私たちの中に別の意味での記憶が蘇ってくるからではないかという思いもあります。

これはマルセイユタロットにおいての、例えば、「太陽」とか」「」、あるいは「世界」のような、数のうえでも上位にあるもので、絵柄的にも明るかったり、融和(友愛)的だったりするカードを見ていて感じることでもあるのです。

それは一言でいえば、我々人類の、「ユートピアの記憶」とでも表現すべきものです。

この世の中は世知辛く、自分がたとえ幸せだとしても、世界規模で見渡せば、貧困や深刻な病気で苦しむ人々、戦争や争いで文字通り、戦々恐々と日々を暮らしている人、また日本においても、物質的には困ることのない環境かもしれませんが、学校や職場においても、多くの人は精神的には決して毎日が楽しいわけではなく、中にはひどく追いつめられたり、厳しく、つらい状況で過ごしたりしている人もいます。

スピリチュアルな人の中には、それは自分が創造しているから、自分が不幸や苦しいと思っているから世界もそう見えてくるのだという人もいます。

ただ、根源的にはそういうことも言えるかもしれませんが、冷静に見れば、全員とは言わないまでも、あまりにもこの世界は矛盾や苦しみで満ちているのも事実でしょう。

まあ、それは“事実”ではなく、自分の思い込み・認識力の低さ、つまりは幻想であると、スピリチュアル的には言えてしまうところもあるので、こういった話は堂々巡りにもなりがちです。

ですので、今はそれは置いておきたいと思います。

話を戻しますと、私たちの中には、平和的状態を思い出す何らかの記憶があり、それはもしかすると、一概に生育史から生まれたものではなく、別次元や、別の時代の記憶であるかもしれないということです。

ロマンチックな話でメルヘンのような設定ですが(笑)、実はこのことはとても重要だと思っています。

マルセイユタロットの教えには、私たちの中には高次の認識、あるいは神性・完全性を保持しているという考えがあります。

私たちがなぜ、平和的・友愛的なものにほっとし、時には涙を流すかのような懐かしさ・郷愁を覚えることがあるのか?と言えば、それは、そういう状態の実現性(状態の存在)を知っているからにほかならないのではないでしょぅか。

宇宙人的な話が好きな人は、私たちの今の状態から見れば、より高度でユートピア的な星系にいた魂の記憶と言ってもいいかもしれません。

私自身は、タロッティストなので、タロットによる象徴的な考えが好きで、宇宙人的なことも、あくまで象徴的に見るようにしていますが、要するに表現の違いであり、象徴的にはユートピア世界のように表せる次元があるということです。

それをある人は、なになにの星という人もいれば、太古の平和的地球とか、理想郷としてのシャンバラとか地底世界とか、桃源郷のように言う人もいるということだと思います。

また修行系では、悟り世界の住人たち、(死者の世界という意味ではなく)彼岸の世界ということなのかもしれません。

こういった記憶と遭遇するには、具体的なものよりも抽象的、あるいは言葉とか文字ではなく、絵(色彩含む)・図形・音・波動などのシンボル・象徴が必要なのです。

だからこそ、人は音楽・映像・絵画など、芸術とその作品によって、ユートピアである元郷を想起することができるのだと思います。

プラトン的にいえば「イデア」への観照であり、イデアであるからこそ現実とは別の世界にあるのです。

しかしそれは夢物語や、単にあこがれるだけのものではなく、私たちの高次の記憶に確かに存在するもので、私たちの囚われている現実的な時間と空間という概念を超えれば、そこにまさしく現出してくるものと想定できます。

つまり、本当の私たちが住む世界はそこにあり、それは故郷・ふるさとと言えるところなのです。

そして、今は何らかの原因で、次元を下降した状態で、現実という苦しみと矛盾の世界に生きており、本当の故郷を思い出せるもの、懐かしめるものに出会うと、魂が反応してしまうのだと想像できます。

通常では現実逃避の発想だと一笑に付されるでしょうが、マルセイユタロットの絵柄を見ていると、私はそう感じるのです。

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