おとぎ話 りんごのなる国
タロットを見ていて思いついた、ちょっとしたおとぎ話と言いますか、ファンタジー的な話をしたいと思います。
あるところに、大きなりんごの木がありました。
この木は、いつもたくさんのりんごを実らせ、もいでもまたすぐにりんごをならせるのでした。
この木の周囲に家があり、人々が住んでいました。
この国(星)の人たちはりんごを主食としていて、これだけで通常は栄養も感情も満たすことができました。
つまり、生きていくのにはこのりんごを食べるだけでOKだったわけです。
もいでもすぐに実るので、人々はりんごを蓄えておくこともなく、また新たに植えて増やすようなこともしませんでした。
そもそもこのりんごが何なのかを詳しく調べたり、考えたりする必要もなかったのです。
そうして人々は平和に、食べ物やエネルギーを得るということでは困ることはなく、穏やかに暮らしていました。
ところが、ここに突如、別の国からある集団が移住してきました。
この人たちは、なぜかいつもあくせくとしており、どうやら移住してきたのも、自分たちの住んでいた地域で食べ物がなくなったからのようでした。
よくはわからないのですが、その人たちのかてつ住んでいたところにも、りんごの木のようなものがあり、それはやはりここと同じように、食べてもすぐに実るようになっていたようです。
しかし、ある日を境に急に実りの速度が遅くなり、なかなか実らなくなりました。
そこで、あせった人が、なっているりんごの実をたくさんもいで、自分の家に持ち帰り、備蓄するようになりました。
当然、りんごはますます少なくなってきます。ほかの人もそれを見ていて、慌ててまねするようになりました。
たちまちりんごは実りが追いつかず、丸裸の木になってしまいました。
ここで初めてりんごが食べられないということを経験をする人が出始めました。そう、空腹や飢えという感覚を味わう人が出てきたのです。
それは初めて味わう、ものすごくつらい体験であり、本当に苦しいものでした。
この星の人はりんごでエネルギーを得ていたので、りんごが食べられなくなると、「死」という恐怖や現実が迫ってくるのです。
「死」という恐怖の前に、人々はとうとう蓄えていたりんごを奪い合うということを始めました。
争いは凄惨を極め、人々は自分たちが思っても見なかった醜く怖ろしい「人」の姿を目の当たりにしました。
そして争いは武器や戦略も生みだし、この地域や国に予想以上の被害をもたらせました。
結果的にはなんと、りんごが食べられなくなって死ぬよりも、りんごを奪う争いによって亡くなる人が多く出たのです。
こんなことはもうたくさんだと、一部の生き残った人が意を決して、集団で旅に出たというのが、この移住してきた人たちの背景にあったのです。
新しい土地、つまり最初に登場した「りんごが普通に実る国」に着いた集団は、、初めはこの国の人たちと同様、穏やかにりんごを食べて過ごしていましたが、あの恐怖体験が蘇り、突然、りんごをたくさんもいで蓄える人も出てきました。
いや、それだけに飽きたらず、ついには移住した集団で組織立ち、この国の人のスキをついて、りんごの周りに囲いをし、りんごを自分たち以外もぐことができないようにしました。
言ってみれば、集団でりんごを独占し始めたのです。
この国の人々が食事のためにりんごの木に向かったところ、堅牢な柵に囲われ、移住民が守っているのに気がつきました。
「私たちにもりんごを食べさせておくれ」と優しく、この国の人々は語りかけましたが、
「ダメだ。今日から我々がこのりんごの木を管理していく」と意住民たちは言い放ちました。
こんなことは初めてだったので、この国の人たちはたいそう驚き、再度りんごをくれるよう懇願しました。
しかし、りんごの周りにいる人たちは、がんとして聞き入れません。
「どうしてそんなことをするのか」と、この国の人たちは聞きました。
移住民たちは言いました。
「我々はかつて、りんごの木がおかしくなって、実がならないことを経験した。そのため我々の間で奪い合いが起こり、多数の死者を出したのだ。ここのりんごの木もそうならないとは限らない。だからきちんと管理して、我々やこの国の人たち皆が飢えないよう、調整してりんごを出荷することにしたのだ」
そう言われても、この国の人は争ったことや競争した経験がないので、どうしたものかわからず、あまり意味も理解できないようでした。
ただ、この時以来、本当に移住民たちによるりんごの管理が始まり、この国の人たちは配給制としてりんごを受け取ることになったのです。
また、移住民たちの考えもあり、やがて、河原にあったきれいな小石を持ってきたものは、りんごを多く渡すということも実行され、いつの間にか、小石そのものがりんごのような価値を持つことになってしまいました。
そのうち、りんごを盗むものも現れたり、もともとの価値以上の小石として交換したり、りんごではなく、小石を溜めたり、預かった小石を貸してほかの小石を追加で取ったり、労働したものに小石が与えられたりすることにもなりました。
小石を偽造するものまで現れ、りんごも盗まれたりすることも多くなったので、移住民たちはりんごの木ごと植え替え、遠くの地に移植させました。
移住民たちはりんごの研究に着手し、ついにはりんごの秘密まで迫り、遺伝子的な操作も行い、偽のリンゴや、ほかの国にもそれを移植させたり、反対にまともなりんごを枯らせたり、実のなる期間を調整したりする技術も開発されました。
時代は何世代も移って行きましたが、移住民の末裔以外の人は、原木のりんごの木のありかはもちろんのこと、改ざんされたりんごのコピーや移植物などの真実も知らされず、ひたから偽リンゴを食したり、小石でりんごを買う社会で、悲喜こもごもの生活をしていったりするようになりました。
このあと、この国や星がどうなったのか、わかりません。
ただ、人々の記憶のどこかには、太古の昔に、飢えも争いも所有も差別もない世界があったことを、うっすらと夢のように時々ふっと思い出すことがありました。
しかしそれは単なる幻想だ、ファンタジーを見ているのだと自分に言い聞かせ、またそんなことを言う人はバカにされ、再び人々はこの楽しくも悲しい刺激ある現実に舞い戻るのでした。
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