「13」 もっとも大切なものを失う時
マルセイユタロットに、名前のない数だけの「13」というカードがあります。
そのあまりに強烈な図像の印象から、ほかのカードで、この数をもったカードは「死神」とさえ呼称されることがあります。
しかし、私たちマルセイユタロットを扱う者は、事実としてカードに名前が記載されていませんから、「名前のない13番」とか、「13」として数で呼ぶことになっています。
名前は実はかなり重要で、皆さんにもお名前があって、名前で呼ばれることは個人を特定されるようなことにもなりますし、親近感を抱いたり、逆に親しくもない人に呼ばれることは嫌悪感が出たりと、名前を呼ぶということは強い影響が出るものです。
神や悪魔(その眷属)を、正式な名前で呼ぶことによって、そのエネルギーを自身のものにすることができる、支配することができるとさえ言われています。
ということで、名前は「性格・性質」、「力」そのものでもあるわけです。
ですから、「死神」と言ってしまうことは、このカードを不吉なものに結びつけることになるのです。
それでも「13」は、名前を呼ぶことが出来ないほど、「13」そのもの(13のカードの本質)は、強力なものでもあります。
しかし、畏れ多いものではある反面、その強力なエネルギーは、私たちを大きく変えることに寄与します。ゆえに、このカードは、積極的な意味において、変容と次元の上昇に関わっているといえます。
また大きな鎌を持っていることが「13」の象徴図の特徴であり、この鎌は、つまりは農作業の刈り取ること、収穫をイメージさせます。
私たちはついつい、この鎌を武器や殺傷道具ように思ってしまいますが、本来的には収穫の道具なのです。ということは、その大地には、何かが実っているということになります。
同時に、やはり鎌は刃物でもあり、刈り取るだけではなく、削ぎ落とすということも考えられます。削ぎ落とされながらも実るものという、一見矛盾めいた象徴もあります。
ところで、私たちそれぞれの人生において、つらいことは必ず誰にもあるものです。
それが病気であったり、経済的なことであったり、家族の心配ごとであったり、人間関係や恋愛のことであったりと、まさに様々です。
そして、人生のターニンポイントに、喜びごとと苦しみごとによるものがあります。
その中で、苦しみごとの場合において、もっともつらいもののひとつが、自分にとって一番大切だと思っていたものを捨てたり、離れたり、関わることが許されなかったりしなければならない事態に陥った時と言えるかもしれません。
それはもう、もっとも大切に思っていたものものの喪失ですから、強烈な落ち込み、気が狂うほどのつらさであり、自分でも信じられない事態で、世界の終わり、人生が終わったかのような思いを持つようなことと言えるでしょう。
人によっては、このようなことが、不幸にも発生することがあります。
これがマルセイユタロット的には、「13」の象徴事件として表されます。
「13」の象徴レベルにも数ありますが、やはり「13」を実感するには、そうした、もっとも大切なものを失う体験が近いのかもしれません。
しかし、さきほど、「13」の鎌は収穫でもあるといいました。何より、先述したように、「13」は変容であり、変革であり、自分の次元を上昇させる象徴でもあります。
もっとも大切だと思っていたものを捨てる時、もっとも大切な新たなものを得ることができるのです。
これは失ったものが与えてくれる場合もあれば、まったく新たなものとして創出されてくる場合もあります。
「13」という数には、「3」という創造性を象徴する数が含まれています。
実は失うことや得ることは、形や意味としてそう感じるだけで、本質的(究極的)には何も失っておらず、何も得ていません。
しかし、個々人の物語にあっては、それは確かに失ったり、得たりしているものです。ということは、その波の経験こそが大事だとも言えます。
かと言って、失うことと得たことが、個人として意味のないものというわけではありません。経験した内容はその人にとって、とても大切で、かけがえのないものです。
肉体と感情をもった、あなたという「個人」でないと経験できない、貴重なものなのです。
失った、もう元には戻ることのできない状況に、とても悲しく、つらく思う日々はあるでしょう。それはすぐに回復できるものではありません。もっとも大切なものだったのですから、当たり前です。
ですが、少しずつ、時間とともに(失い得るという感覚は、時間と空間の感覚があるからこそ生じているものなので、時間は現実において、重要な回復ポイントになります)、あなたが失った代わりに新たに得たものや、まったく新しい自分の境地として、モノの見方や愛の次元が変容していることに気づくでしょう。
たとえ失ったこと、そうならないといけなかったことが不幸と感じたとしても、不幸によって、この世の根本的な問題に気づき、魂的に覚醒していくチャンスが与えられていくことにもなります。これは、「グノーシス」(神性への覚知)とされているものでもあります。
「13」には、マルセイユタロットの秘伝図から、どうしても「審判」のカードとの関連が出ます。
「13」は言わば、「審判」とのセットにて、その象徴性が生きるとも考えられますし、「13」の次の数を持つ、「節制」ともやはり関係します。
「審判」も「節制」も天使の絵図が描かれていることにも注目です。
このように、タロットの象徴図をもって、個々の人生に当てはめれば、つらいことも、転化・変性・昇華させていくことができるのです。
コメントを残す