映画「サン・ジャックへの道」
公開当時からずっと見たいと思っていて、結局劇場へは足を運ぶことができずだった映画「サン・ジャックへの道」を、ようやくレンタルして見ることができました。
映画の内容は、母親の遺産相続の条件として出された、サンチャゴ・デ・コンポステーラ(「サン・ジャック」とは「サン・チャゴ(聖ヤコブ)」をフランス語読みにしたもの)への徒歩巡礼の旅を、仲の悪い3兄弟(兄・姉・弟)たちが行うというものですが、兄弟だけではなく、巡礼路ツアーといいますか、巡礼のためのパーティーが組まれており、ガイドを中心にして例の兄弟たち入れて、全員で9名のグループ構成で聖地を目指す旅が始まります。このメンバーが老若男女様々で、それぞれに微妙に関係する要素を入れており、なかなか絶妙な人間模様を形成する配置となっています。中にはいとこにだまされて、「メッカへの旅をする」と誤解したままのイスラム移民系とおぼしき青年も参加していて、この青年と、問題兄弟の一人であり、学校の先生をしている頑固おばさんとのエビソートが、なかなか心温まるものに仕上がっていたりします。
「巡礼の旅」とは言いますが、そこには“信仰”がテーマとはなっておらず、いわば「旅をすることで自分や他人を見つめる」ことが主題になっているといえます。ですから、たまたまその舞台が「サンチャゴの巡礼路」になったというだけで、極端なことをいえば、何かの目的地に着く旅路であれば何でもよかったのではないかと思うほどです。最初にも述べたように、ほとんどのメンバーの参加動機が崇高なものではなく、いいかげんなものなのですから。。。
それで、ここまで説明すると、おそらく映画を見ていなくても、この種の話にありがちなストーリーの経過として、「どうせ旅をしながら事件やふれあいがあって、最後にはみんな仲良くなっていったり、いい人になったりするんだろう?」てな想像が生まれるのですが、まあ言ってみればだいたいはその通りです(笑)。
しかしながら、やはりそこは“サンチャゴの巡礼路”なのです。この風景がすごい。ありきたりなテーマであるとはいえ、「サンチャゴ・デ・コンポステーラ」という世界遺産にも登録されている歴史ある重みが、旅を続ける一行の背景映像・景色として圧倒的な存在感、自然観でもって人々を飲み込んでいきます。確かにグタグタと、兄弟はじめメンバーはいがみあったり、時には愛し合ったりと、様々に“こと”をそれなりに旅上で起こしていくのですが、そういった人間事象が、いいことも悪いこともひっくるめて、ささいで、取るに足らない、空虚なものであると、“長大な巡礼路”と“淡々とした旅”そのものが訴えかけてくるのです。
一方、映画はヨーロッパティスト、特にフランス映画であるだけに、直球的な描き方をもってのハッピーエンドとか、人生激変、大逆転の大事件などが起こるような仕掛けにはしていません。本当に人間くさいというか、「見ず知らずの人たちと旅をしていたらこういうことがあるだろうな」と思わせる小さなエピソードをもって、物語を積み上げています。ですから、メンバーの最終的な変化に、あまり不自然さを感じさせないものとなっていますし、別に全員が真人間とか、いい人に変わるわけでもありません。
この映画では、巡礼路という壮大な背景をもとに、小さなレベルでいがみあったり、ひかれ合ったりする人間模様を描くことで、次第に巡礼をする人たちが、ただ目的を目指して先を進むというシンプルな世界構造に同化していく過程が描かれています。それは本来自分に備わっていた純粋なもの(兄弟愛であったり、素直な愛情であったり、人によって違ってはいても、もともと全員有していたもの)が磨かれて、再現・再生されていく様子が表されていたように思います。それは、1500㎞にも及ぶ長い道のりと、何世紀もの間で繰り返されてきた巡礼という特別なルートによってなされるものであり、結局は「サンチャゴの巡礼路」にも意味があるということも見えてきます。旅路なら舞台はどこでもよかったのではないかと最初に言いましたが、実は「サンチャゴ・デ・コンポステーラ」、つまり「サン・ジャックへの道」でないといけなかったのです。痛烈なキリスト教批判もあったり、無宗教観漂うこの映画ですが、監督の意図とは別に、信仰ルートの重さも必然的に感じさせる映画となっているのが面白いところでもあります。
カモワンタロットをしている者には、“サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼路、旅”といえば、すぐに浮かんでくるあのカードがあります。そう、「愚者」です。この映画から、私は「愚者」「ⅩⅢ」「審判」あるいは「太陽」という並びを見た思いがします。それにしても巡礼路のフランス側出発点のひとつである「ル・ピュイ」の大聖堂と黒い聖母子像、興味深かったです。カモワンタロティストとしては、行ってみたい場所盛りだくさんの映画でした。そういう意味でも、皆さんに見てもらいたい作品ですね。
個人的には3兄弟の長兄が、途中で帰ってもよい状況になったにもかかわらず、今までの人生同様、中途半端はいやだと、やりとげたいという思いで、目的地であるサンチャゴ・デ・コンポステーラまで行くことを決意する下りは心に響きました。この巡礼路は、「何かをやりどける」というすごい成功体験を人々にもたらしてきたのでしょうね。意外に深層心理では征服欲にも通じているのかもしれません。スペイン、キリスト教の国土回復運動(レコンキスタ)とサンチャゴ・デ・コンポステーラ巡礼が連動していたことを考えますと、何かうなずけるものもあります。ともあれ、失敗感や無力感を強く持っている人には、強烈な成功体験、達成感を味わえる“巡礼”という方法は、とても効果的なのかもしれません。必ず到達しなくてはなりませんけども。。。
映画は未見なんですが、面白そうですね。
私も見たいと思っていたんですが、失念していました。miyaokaさんは現地に足を運んだ経験もおありですから(あれ?微妙に違いましたっけ?)その雰囲気を肌でお感じになった感覚もおありだと思いますので、羨ましい限りです。
しかし、改めて中世などの昔を考えますと、今よりは格段に不便且つ危険な巡礼でしょうから、その達成感たるや尋常なレベルではなかったでしょうね…。
マルセさん、前記事に引き続き、連続投稿ありがとうございます。
えーと、サンチャゴ・デ・コンポステーラの道は私はまだ行ったことがありません。国としてフランス、スペインの地を踏んだだけですね。(^^;)
場所は違いますが、のんびりと貸し切りバスで、車窓から荒涼なスペインの大地を眺めたりはしたことはありますが、もちろんそれは単なる観光で、楽チンだったです。(笑)
国内の四国や熊野巡礼もしたことないので、サンチャゴへの道ををまともに巡礼したら、日頃運動不足の私など、半日でヘロヘロになるでしょうね。この映画に出てくる人たちを笑えないです。。。
中世と現代で何が違うといっても、やっぱり電気のあるなしじゃないでしょうか。近世でもほとんど電気はなかったですけどね。(この映画でも携帯とその充電関係の話はよく出ます)
だから旅で夜を迎えてしまうのは、めちゃくちゃ恐ろしいことだったのではないかと。それまでにきちんと宿に入らないとやばかったでしょう。まだサンチャゴの道は多くは平原みたいな感じですが、ほかのヨーロッパのほとんどは森の固まりみたいな土地が多かったらしいですから、そりゃ吸血鬼伝説、狼男の話など出ますわな。でも逆に考えると、暗闇で生活せざるを得ないことも多かったのでしょうから、おそらくかなりの鋭敏な感覚が昔の人は働いていたかと想像できます。屋内でも、霊的な感性を上昇させるといわれる「ろうそくの灯」ですしね。そういう普段でも鋭い昔の旅人が、「エネルギーの道」ともいわれる巡礼路を辿って目的地に向かうわけですから、ゴールした暁には、本当に超人みたいな変容を遂げていた人もいたのかもしれませんね。
うわ!気合いの入ったお返事をいただいておりまして恐縮です。こちらで漫画の話をするのは重ね々々恐縮なんですが、「修道士ファルコ」という漫画がございまして(作者は「エロイカより愛をこめて」の青池保子)、これは中世ドイツのシトー会の修道院を舞台にした物語なんですが、この話の中で、ある陰謀が発覚した修道士に対して、贖罪として、聖地サンティアゴへの巡礼を命じられる場面があります。ドイツからスペインの聖地への巡礼は、作中では事実上の追放に近いニュアンスがありましたが、確かに当時のヨーロッパの森の深さと不気味さ、そして道中の獣や盗賊等の危険度を考えると、無事に聖地にたどり着くのは、かなりの難業であったことが伺えます。それを乗り越えて辿り着くことは、法悦に近いものがあったんでしょうね。
それにしてもmiyaokaさんもお書きになっておられるように、暗闇やそれを照らす蝋燭の灯りは、感性を磨くのには有効みたいですね。実は最近お風呂を蝋燭で入ったりしていますが、何だかそれっぽい雰囲気が出ています(笑)。
いやー、マルセさんも結構な量の連投ありがとうございます。
漫画ネタ、大いに結構ですよ。アニメネタでも構いません(笑)。
青池さん、たしかに「エロイカ…」で有名なんですが、私は作品を読んだことがありません。中世ヨーロッパものをお得意とされているようですね。十字軍関係の作品もあるようで。。。
私自身も話作りが趣味なところがありますので、一度カモワン氏に取材して、タロットメーカー伝説・・・みたいなものを書きたいなあと思いますね。
蝋燭使われていますか。12月はクリスマスにかこつけても、キャンドルを使いやすい季節ですから、蝋燭時間を作るのはチャンスですね。冬至やミトラ教関係の儀式の名残ともいわれるクリスマスに、意識的でないとはいえ、現代生活でも蝋燭を灯すことになるのは、面白いことです。キャンドルの神秘性については、大沼先生著の「魔法カバラー入門」でもP198あたりから書かれていますね。
こんにちは!
来週の『世界遺産』(TBS系 日曜日23:30~)は、
「サンティアゴ・デ・コンポステーラ(旧市街)
(スペイン)」 だそうです。
今、予告をみて興奮して書きこみさせていただいています。
この映画もとても観たいのですが、
まずこの番組をみて
雰囲気を味わいたいと思います!
matchyさん、コメントありがとうございます。
そうですか、来週の「世界遺産」は、サンチャゴの道ですか。
それは是非見なければ!
貴重な情報ありがとうございます。まさに、この記事的にもグッドタイミングです。(笑)